長田弘エッセイ:「ねこに未来はない」の魅力

読書

こんにちは。長編小説を読む合間に息抜きとしてエッセイを読むことが多いのですが、最近ふと読んでみたエッセイがとても素敵だったので紹介させていただきます!文庫化もされているので、手に取っていただきやすいのではないかと思います。それでは、どうぞ!

長田弘エッセイ:「ねこに未来はない」の魅力

実はわたくし最近の猫ブームに乗っかって猫を飼い始めたんです。今まではずっと犬派だったのですが…猫の自由気ままな生き方は見ていてうらやましく思うくらい魅力に溢れていますよね。このエッセイの著者長田弘氏も、元々猫好きというわけではなく(むしろ苦手だった)、結婚を機に猫と暮らすようになったそうです。

ぼくは最初ねこが好きじゃありませんでした。(中略)そのぼくが、どういう星のめぐりあわせか、たいへんねこ好きのひとと結婚しなければならないはめになってしまったのです。なんという不運でしょう!

ねこに未来はない 長田弘 著

著者 長田弘氏について

長田 弘 おさだ ひろし
1939年、福島県福島市生まれ。福島県立福島高等学校卒業。1963年、早稲田大学第一文学部独文専修卒業。日本の詩人、児童文学作家、文芸評論家、翻訳家、随筆家。2015年没。

デビュー作…『われら新鮮な旅人』(1965)
主な代表作…『深呼吸の必要』(1984)
主な受賞歴… 毎日出版文化賞(1982)
講談社出版文化賞(2000)
三好達治賞(2010)
毎日芸術賞(2013)
Wikipediaより

恥ずかしながら、今回この本を手に取るまで、長田氏のお名前さえ存じ上げておりませんでした。

時代は50年前!

初版発行は1971年。今からちょうど半世紀前の話なんですね。今でこそ多くの猫たちは予防接種を受け、手術を受け、家の中でぬくぬくと平和に暮らしていますが、このエッセイの時代はそうではありません。猫を飼うのも、どこかの猫が子どもを産んだからもらいに行くというところからです。今のようにブリーダーさんやペットショップから購入したりというのは、ほとんどない時代だったのではないかと思います。

「ねえ、わたしたち、なによりもまず、ねこを飼いましょうね」

結婚して最初の朝に長田氏の奥さんがまず言ったのが「ねえ、わたしたち、なによりもまず、ねこを飼いましょうね」なんだそうです(笑)相当飼いたかったんでしょうね。まだまだ生活は貧しいながらも、幸せに満ちた新婚生活を想像していた長田氏(猫嫌い)には、寝耳に水の発言だったようです。

彼女は、ねこぎらいのおとうさんとおかあさんのあいだで育ったので、結婚したらまっさきにねこを飼いたいとずっとおもいつめていて、いつそれをいおうかと、もうせんからじっくり作戦をねっていたのだそうです。しかし、結婚するまえには、そんな話を、ぼくは角ざとうのかけらほどもきいたことはなかったのでした。

ねこに未来はない 長田弘 著

かわいい仔ねこください、きっとかわいがります

そうして、友人から猫を譲り受けた後、住んでいた家が猫禁止だということがわかり、どうしたものかと考えているうちに猫はいなくなってしまいます。昔は猫は家と外を行き来するのが普通だったので、いなくなるのも自然なことだったのかもしれません。それでも、夫婦二人にとってはショックな出来事だったことでしょう。

その後、猫の飼える家に引っ越した夫婦はなかなか新しい仔猫に巡り合えず、とうとう自分たちから「かわいい仔ねこください、きっとかわいがります」と張り紙をしてしまいます。この発想がなんともいじらしくて憎めない。その張り紙をきっかけに、近所の猫好き「ベッシーおばさん」から新しい猫を譲り受けることになるのです。

そこには、知らないおばさんが仔ねこのはいった洗面器をかかえて立っていたのです、ベッシー・スミスみたいに悲しげに太った、しかし陽気な声のおばさんが。

ねこに未来はない 長田弘 著

まるで童話を読んでいるようなエッセイ

詩人、児童文学作家ということもあり、優しい文体でまるで童話のようなフワフワとした気分にさせてくれます。なだ いなださんの解説にも言葉の魔術、童話風の文体と評されています。鮮明な画像のように仕上げられた物語とも。

そだった時間のぬくもり、そだった場所の匂い、そだてた人間のやさしいまなざし。ねこは、そうしたデリケートなじぶんの手製の歴史のなかでしか生きられない生きものなのです。

ねこに未来はない

巻末小説が面白い!

巻末のマーマレード・ジム(ジャムではない)は、アラン・シリトーの原作を著者がアレンジしたもの。個人的にはレイチェル・ウェルズの「通い猫アルフィー」シリーズを思い出しました。シリトーの原作もぜひ読んでみたいものです。

ねこに未来はない?

さて、これってどういう意味でしょう?きっとこの作品名に惹かれて本を手に取る方も多いのではないかと思います。その答えは、ぜひエッセイを読んで見つけてみましょう♪

最後までご覧いただきありがとうございました!

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